芽殖孤虫とは裂頭条虫科に属すると考えられる幼条虫(プレロセルコイド)に対して与えられた名称であり、本研究は遺伝子解析の手法による芽殖孤虫の種および固有宿主の特定、裂頭条虫科における類縁関係の解明、さらに分類学的に混乱している本科の分子系統の解明を目的とした。 初年度である平成11年度は鯨類の漂着調査(2件3例:ミンククジラ、ユメゴンドウ、オウギハクジラ)を実施し、これらから得られた裂頭条虫標本に国立科学博物館に保管されていた標本を加えて形態学的に検討した。その結果、これまでに大卵裂頭条虫、鯨腹殖門条虫、フールマン裂頭条虫が同定され、また種の同定に至らないものが3例認められた。これらの種の同定を急ぐと共に博物館標本の調査を続行している。またこれら虫体から抽出した全DNAを鋳型に、条虫類が属する扁形動物ミトコンドリアシトクロームcオキシダーゼサブユニットI(COI)で高度に保存された領域の塩基配列をもとに作製したプライマーを用いてPCRを行い、予想される約400bpのPCR産物を得た。予定していたNADHデヒドロゲナーゼサブユニットIII(NDIII)のPCRによる増幅、およびCOI、NDIIIの部分配列の決定には至らなかったがこれらについては現在実験を進めている。 さらに来る12年度に計画している遺伝子ライブラリーのスクリーニングに対応するため、遺伝子導入システムの導入等の設備拡充を行った。12年度は海産哺乳類漂着調査を続け新たに標本を得ると共に、配列の決定をはじめとした実験、解析を実施する。
|