緑膿菌の病原因子である鉄獲得系や多くの外毒素産生を支配する遺伝子群は鉄レギュロンの構成員であり、生育環境の鉄濃度に依存した各遺伝子の転写は、統括的レプレッサーであるFurと多面的アクティベーターであるPvdSにより制御される。本研究では、FurとPvdSの両因子が直接並びに間接に転写制御する遺伝子群の網羅的な同定と同定遺伝子の発現制御様式の検討を、遺伝学的手法とプロテオーム解析を連関させて行っている。 1.相同組換えによる遺伝子置換法並びに研究代表者が構築した効率的な部位特異的欠失法の両手法を用いても、染色体fur遺伝子の機能完全欠損突然変異の単離はできなかった。相補性検定の結果をも踏まえて、緑膿菌のFurは本菌の生存に必須で未知の機能を制御していると結論された。 2.FurやPvdSにより直接並びに間接に転写制御されるプロモーターを緑膿菌背景下で同定するためのトランスポゾンを構築した。リボゾーム結合部位を細菌用に変え、プロモーターを欠くGreen fluorescence protein遺伝子(gfp)をレポーターとして採用したトランスポゾンが緑膿菌染色体に挿入された突然変異体を多数取得した。現在、実体蛍光顕微鏡等を用い、培地中の鉄濃度変動によりgfpの発現が制御される誘導体株を検索している。 3.幾つかの膜画分蛋白質の産生は生育環境の鉄濃度により制御されることが報告されており、プロテオーム解析には膜画分蛋白質の解析も必須である。そこで、本菌を対象にして、全細胞蛋白質と膜画分全蛋白質をおのおの二次元電気泳動により分画する手法を確立した。この手法を用い、培地中の鉄濃度変動により産生が変動する膜画分蛋白質と可溶性画分蛋白質の同定を行っている。
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