研究概要 |
緑膿菌の病原因子である鉄獲得系や多くの外毒素産生を支配する遺伝子群は鉄レギュロンの構成員であり、生育環境の鉄濃度に依存した各遺伝子の転写は、統括的レブレッサーであるFurと多面的アクティベーターであるPvdSにより制御される。本研究では、fur遺伝子と周辺領域の解析と、FurとPvdSの両因子が転写制御する遺伝子群の同定と同定遺伝子の発現制御様式の検討を、遺伝学的手法とプロテオーム解析を連関させて実施した。 1.本菌のfur遺伝子を含む約14kbの染色体断片をクローニングし、furを含む1,280bpの塩基配列を決定した。furのプロモーター領域にはFur boxは検出できず、大腸菌等の場合とは異なり、furの転写はautoregulationされている可能性は少ないことが示唆された。 2.染色体のfur遺伝子及びその下流の7kb領域の特定部位は、対立遺伝子置換系並びに研究代表者が構築した効率的な部位特異的欠失法の両手法を用いても、破壊できなかった。ゲノム全塩基配列のデータベースではfur遺伝子下流には主要シャペロンの遺伝子群が存在し、本研究で破壊が困難であった特定部位はgrpEとdnaJ内に存在していた。このことから、Furは本菌の生存に必須で未知の機能を正に制御しているとともに、GrpEとDnaJは本菌の生存・増殖に必須であると結論された。 3.幾つかの膜画分蛋白質の産生は生育環境の鉄濃度により制御されることが報告されており、プロテオーム解析には膜画分蛋白質の解析も必須である。そこで、本菌を対象にして、全細胞蛋白質と膜画分全蛋白質をおのおの二次元電気泳動により分画する手法を確立した。 4.プロモーターを欠くgfp遺伝子をレポーターとして採用したトランスポゾンが緑膿菌染色体に挿入された突然変異体を多数取得し、この中から培地中の鉄イオンが欠乏時に転写量が増大する挿入突然変異体を3株、また、過剰時に増大する株を3株取得し、各トランスポゾン挿入部位の近傍の染色体断片をクローニングした。また、同様の突然変異株を類縁のセパシア菌で取得するとともに、セパシア菌のFurは菌の生存には必須でないことを見出した。
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