Bordetella壊死毒(DNT)を^<125>I標識して標的細胞との結合様式の解析を試みた。種々の大きさのDNT断片を作製しそれぞれを^<125>I標識して同様に結合実験をおこなったところ、N末端側から54位Gluまでのペプチド断片(B断片)にDNTの結合ドメインが存在することがわかった。MC3T3-E1細胞に対するB断片の結合のKd値は2.5x10^<-6>Mであった。B断片はDNTに感受性のある細胞にはいずれも結合し、非感受性の細胞には結合しなかった。このことから、DNTに対する感受性は細胞膜上の受容体の存在によって主に決定されると考えられた。DNT受容体の一過性発現クローニングの際に利用するアッセイ系を確立することを目的に、DNTの細胞に対する作用をさらに解析した。その結果、DNTは細胞のRhoファミリーGTP結合タンパクのスイッチII領域にあるGlnに特異的にポリアミンを付加することが明らかとなった。ポリアミン化されたRhoはGTP水解活性を失うほか、GTP非依存的に下流のエフェクタータンパクと効果的に相互作用するため、構成的活性型として機能することがわかった。 B断片のアミノ酸配列を詳細に調べたところ、B断片のC末端側に動物細胞由来プロテアーゼのfurinの認識モチーフが存在することがわかった。そこでDNTをfurinで処理したところDNTはこのモチーフの位置で切断された。DNTの細胞に対する作用はfurin処理により100倍程度強くなり、逆にfurin認識部位に点変異を導入したDNTは細胞に対する作用が完全に消失した。Furin処理DNTは人工脂質膜であるlipsomeと結合しなかったが、DNTの細胞への結合ドメインを除いたDNTdeltaBはliposomeと結合した。さらに、DNTdeltaBは本来DNTに感受性のないBalb/3T3細胞に作用した。以上の結果から、DNTはN末端側のB断片が細胞膜上のfurinもしくはfurin様プロテアーゼと相互作用した後、酵素活性ドメインを含むC末端領域が直接に細胞膜と相互作用し、最終的に酵素活性領域が細胞内に直接移行すると考えられた。現在はこのfurinもしくはfurin様プロテアーゼがDNTの細胞膜上の受容体として機能しているのかどうか検討している。
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