ヘリコバクター・ピロリが産生する毒素としては、細胞空胞化致死毒素(VacA毒素)のみが今日までに報告されているにすぎず、本菌感染による病態形成にVacA毒素の関与が強く示唆されている。我々は、この毒素の宿主への初期効果を知る目的で胃上皮細胞膜上の受容体蛋白を同定(Yahiro K.et al(1997)Biochem.Biophy.Res.Commun.238:629-638)し、その精製を行ってVacA受容体蛋白が受容体型チロシンフォスファターゼRPTPβである事を明らかにした(Yahiro K.et al.J.Biol.Chem.(1999)274:36693-36699)。一方、他の研究グループにより前白血病細胞HL-60細胞がVacA毒素に対して非感受性であるという我々の成績が確認されるとともに、PMA/TPAでHL-60細胞を処理するとVacA感受性に変わることが示された(FEBS Lett.(1998)218-222)。 平成11年度は、VacA毒素の受容体、RPTPβ、が真にVacA毒素受容体として機能していることを、FEBS Lettの論文の知見に基づき、HL-60細胞のVacA毒素感受性とRPTPβの発現に因るものか、また、他の分化誘導試薬を用いた際のVacA毒素感受性とRPTPβの発現との関連はどうかなどをしらべた。その結果はいずれもRPTPβの発現と毒素感受性獲得が一致しており、RPTPβがVacA毒素受容体として機能していることを示していた。 平成12年度は、RPTPβにおけるVacA毒素の結合部位を調べる目的でまずの3種のRPTPβアイソフォーム中で細胞外領域の短いRPTPβ-Bに注目し、種々の変異体を作製して解析した。その結果、脱炭酸酵素類似領域、フィブロネクチンIII領域およびセリン・スレオニンに富む領域とは異なる部位に結合することが分かった。さらに結合部位の絞り込みを行うとともにYeast-Two Hybride法によるVacAの結合部位の解析を進めている。
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