わが国で初めて発生したB型乳児ボツリヌス症から分離された菌(111株)の産生する神経毒素(NT)の性状を詳細に調べ、従来から知られている食中毒由来菌株(Okra株)の神経毒素と較べた結果、毒素活性が低く、これが受容体への結合活性低下に起因していることを明らかにした。さらに、毒素遺伝子の解析に基づく受容体への結合親和性に影響をおよぼす神経毒素分子の構造変化を調べ、あわせて受容体認識領域のリコンビナント蛋白の調製を試みた。菌体DNAを鋳型としてPCRを行い、得られた産物から111/NTおよびOkra/NT遺伝子の塩基配列を決定した。111/NTおよびOkra/NTの構成アミノ酸残基数(1291残基)は同じであったが、受容体認識領域とされている重鎖C末端領域の相同性は約90%で、他の軽鎖、重鎖N末端領域と比べ低かった。さらに神経毒素分子の推定される立体構造から重鎖C末端領域内で異なる部位をアミノ酸レベルで解析した結果、変位部位の約70%のアミノ酸が分子表層に露出していることが予想された。各受容体認識領域(854〜1291残基)をPCRで増幅し、pQE30vectorに挿入し、大腸菌M15で発現させNi-NTA Superflowで精製し、分子量54kDaのリコンビナント蛋白(rOkra/Hcとr111/Hc)を得ることができた。rOkra/Hcはr111/HcよりもOkra/NTの受容体への結合を効率良く阻害し、受容体への直接結合から得られた解離定数はOkra/NTと同程度の値(0.6nM)を示した。Okra/Hcをtemperateとして種々の点変異体を調製し、それぞれの受容体への結合活性を調べることにより、受容体認識に必須な重鎖C末端領域における部位の特定を進めている。
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