Salmonella enterica serovar Typhimurium(S.Typhimurium)のSalmonella Pathogenicity Island2(SPI-2)内に同定したマクロファージ(Mφ)の殺菌抵抗性に関与する新規遺伝子、spiCの機能解析と発現制御機構について研究実施計画に基づいて研究を行った結果、以下の知見を得た。 1.spiC遺伝子の発現制御機構:(1)spiCの発現はSPI-2に存在する二成分制御系の調節遺伝子、ssrA/ssrBに加えて、phoP/phoQシステムによっても正に調節されていた。(2)spiCの発現は、対数増殖期後期から定常期で見られた。さらに、RpoS(シグマファクター)によってもその発現は正に調節されていた。(3)Mφのファゴソーム内のような低Mg^<2+>(10μM)や低pH(5.0)の条件で、spiC発現の増強が見られた。(4)spiCの領域にlacZ遺伝子を挿入したキメラを作成してMφに感染後、spiCの発現を調べた結果、経過時間とともに発現の増強が見られた。 2.SpiC蛋白の機能:(1)SpiCはSPI-2のタイプIII分泌機構を利用して、感染細胞であるMφの細胞質内に分泌される。(2)SpiCはMφの殺菌能に対する抵抗性に関与し、その機序はファゴソームとライソゾーム(P/L)融合の阻止であることを示したが、さらにSindbisウィルスを利用してSpiC蛋白をMφ内で発現させたところ小胞の細胞内輸送が阻害された。(3)Differential display解析の結果、SpiCはサルモネラ感染Mφにおいて、Interleukin-10(IL-10)産生の増強にも関与していた。さらに、サルモネラ感染マウスの脾臓中のIL-10産生量にもSpiCは影響を与えた。IL-10産生の意義として、IL-10がMφの機能を抑制するとの報告があることから、産生されたIL-10によりサルモネラ感染MφにおいてP/L融合が阻止され、サルモネラが細胞内で増殖可能な環境になるものと考えられるので、今後それらについて詳しく調べる。
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