細胞はDNAの情報に基づき、アミノ酸を順次繋ぎ合わせタンパクを合成する。しかし合成されたタンパクはただのアミノ酸の紐にほかならず、タンパクとしての活性を発現するためには一定の立体構造を構築しなくてはいけない。従来はこの立体構造の構築はタンパクの一次構造から自ずと完成されるといわれていたが、最近では構造の構築は一次構造だけでは完成しない場合が多く、完成には種々の因子が関係していることが明らかにされた。また合成されたタンパクはその作用場所まで運ばれなければならず、この運搬に関わる種々の機構が明らかにされている。 腸内細菌感染による下痢症の多くは、菌が合成し、菌体外に放出したタンパク毒素である下痢毒素(エンテロトキシン)の作用により生じる事が多い。この毒素が宿主動物に下痢をおこすためには、上に述べた立体構造の構築と菌体外への運搬という2つの条件が満たさなければならない。そこで大腸菌耐熱性下痢毒素II(ST II)が分泌されるのに必要な構造と分泌に関与する菌の装置であるTolCの活性発現に必要な構造の解析をすすめた。 ST IIは2本のジスルフィド結合(10-48位間、21-36位間)で架橋される48個のアミノ酸からなるペブタイドであるが、分泌されるためには21-36位で架橋されることが重要であることを見いだした。21-36間には疎水性アミノ酸のクラスターがあり、ジスルフィド結合形成で一定の形をとった本クラスターが分泌に必要である可能性が考えられた。 またすでに報告者達はST IIが外膜を通過する際にはTolCとよばれる外膜タンパクが関与する事を明らかにしている。そこでこのTolCのどの構造が分泌に必要なのかを検討した結果、カルボキシ末端から60番目に位置しているロイシンはTolCの分泌活性に重要な働きをしていることを明らかにした。
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