研究概要 |
腸炎ビブリオの病原因子の伝播に線維状ファージが関与しているか否かを明らかにすることを目的とした。初年度、線維状ファージVf33の解析を研究計画として提出した。しかし1996年以降腸炎ビブリオでは初めての汎発性流行の事例が問題となり、日本でも発生件数が増加してきた。そこで、その原因菌であるO3:K6,O4:K68血清型株と線維状ファージとの関係を明らかにすべく研究方針を変更した。O3:K6,O4:K68血清型株もVf33類似の線維状ファージを有しており、そのファージゲノムは宿主染色体上に組み込まれていた。ファージゲノムの複製、構造タンパクなどをコードする遺伝子領域は極めて類似しているが、宿主菌への吸着タンパクをコードする遺伝子は異なっていた。この事はこれらファージの宿主菌がVf33のものとは異なる事と一致していた。一方、染色体への組込み部位、複製の調節遺伝子等が存在する領域の遺伝子構造は異なっていた。O3:K6型ファージはこの部位にdata base検索でもホモロジーが見られない新たなタンパクをコードする遺伝子を有していた。この遺伝子は、汎発性流行株は全て有していたので、流行性との関係が強く示唆された。しかし、O4:K68型株から得られたファージゲノムはO3:K6型ファージ遺伝子のこの部位を欠損しており、また新たな遺伝子を獲得していた。染色体からの切り出しの際に欠損が起きたと考えられる。更に、これらのファージをプローブにhybridization testを行うと、他の腸炎ビブリオ菌株も類似遺伝子を有しており、腸炎ビブリオの中に線維状ファージは広く分布しており、遺伝子の伝播、再構築に線維状ファージが関与している可能性が強く示唆された。
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