マウス腸管粘液に含まれるコレラ菌エルトール溶血毒(65kDa ; ETH)の阻害因子の探索とその阻害機構を解明する研究計面の最終年度である平成13年度において、次の2項目の研究を行った。 1.蛋白分解酵素によって65kDaETHが限定分解を受ける部位の同定 マウス腸管粘液成分であるトリプシンやα-キモトリプシンによって65kDa ETH単量体は限定分解を受け、約50kDaのETHが新しく生じることを前年度明らかにした。本年度はETH単量体が、トリプシンによって限定分解を受ける部位を同定するために、50kDa ETH分子のN末端から5残基までのアミノ酸配列を調べた。その結果、Ala-Pro-Ala-Asn-Serであることが分かった。また、限定分解を受けていない65kDa ETH 分子のN末端のアミノ酸配列も調べたところ、Ala-Pro-Ala-Asn-Serであった。この5残基の配列は、ETH分子のN末端にのみ存在する。この結果から、50kDaのETHは、N末端側の断片であることが考えられた。また、もう一方の断片である15kDaのETH分子の探索を行ったが、15kDaに相当する分子またはその小断片を検出することができなかった。したがって、限定分解を受ける部位を特定することができなかった。 2.マウス腸管粘液あるいは蛋白分解酵素で処理したETHの細胞傷害作用の研究 ETH単量体をマウス腸管粘液やトリプシンで処理し、ヒト腸管培養細胞Intestine407に対する細胞傷害作用を調べた。しかしながら、50kDaETHは、この細胞に対して細胞傷害をまったく引き起こさなかった。この結果から、成熟型65kDa ETHは、マウス小腸内でトリプシンによつて限定分解を受けると、細胞傷害活性を消失する可能性が示唆された。
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