研究概要 |
エンドトキシンによる細胞の活性化において種間の反応性の差は非常に重要な問題である。現在までリピドAの前駆体がマウスに対してはアゴニストであるのに対して、ヒトでは不活性体であり、アンタゴニストとして作用することが知られていた。今回我々はサルモネラ型リピドAが同じくマウスとヒトに対して種特異性を示すことを見いだした。サルモネラ由来の天然リピドAとして、Salmonella abortus equi,S.minnesota,S.typhimurium LT2由来のリピドAを、またサルモネラ型リピドAとして化学合成化合物(516)を用いた。対照としてE.coli LPSと大腸菌型化学合成化合物(506)を使用した。サルモネラ由来リピドA及び516は、E.coli LPS及び506と比較して活性は劣るものの強いリムルス活性及びマウス腹腔マクロファージ、及びJ774細胞からのTNF-α産生誘導活性を示した。しかしながらE.coli LPS及び506がヒト細胞(THP-1,U937)に対してマウス細胞に対すると同様に強いTNF-α産生活性を示したのに対して、サルモネラ由来リピドAは極めて微弱な活性しか示さず、516は10μg/mlの高濃度においてもまったくTNF-α産生誘導を起こさなかった。同様の結果はNF-κBの活性化においても見られた。一方、サルモネラLPSはリピドAと異なり、ヒト細胞に対してもE.coli LPSと同様の強い活性を示した。さらにヒト細胞に対して不活性な516は、506の作用にアンタゴニストとして作用した。以上の結果からサルモネラ型リピドAは種特異性を示すことが証明されたが、リピドA前駆体の場合と異なり、サルモネラ型は実際天然に存在する構造体であることからその現象の意味は大きいと思われる。大腸菌型のリピドAはヒトにもマウスにも同様に強力な作用を示す。この2つのリピドAの構造はわずかに一本の脂肪酸のみである。すなわちヒト細胞はこのわずかな構造を認識してその応答を決定していることになる。またサルモネラのリピドAとLPSのヒト細胞に対する作用の違いは、LPSの多糖部分がヒト細胞の活性化に関与していることを強く示唆している。
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