85例の川崎病患児について、咽頭および直腸拭い液から検出される黄色ブドウ球菌由来遺伝子(コアグラーゼ遺伝子、プロテインA遺伝子)およびスーパー抗原遺伝子(SEA、SEB、SEC、SED、TSST-1、SEG、SEH、SEI)の頻度を健常対照乳幼児75例と比較した。その結果、細菌学的方法による川崎病患児からの黄色ブドウ球菌の分離頻度は、咽頭24.7%、直腸20.5%であり、従来の報告(20%前後)と変わらなかった。しかしPCR法を併用することにより、黄色ブドウ球菌由来遺伝子の検出頻度は咽頭49.4%、直腸43.4%と、細菌学的方法の約2倍になった。コアグラーゼ遺伝子、プロテインA遺伝子の検出頻度では、対照乳幼児群との有意差は認められなかったが、月齢3か月の乳児の咽頭粘膜には黄色ブドウ球菌が高頻度(51.2%)にcolonizeしていることがわかった。 黄色ブドウ球菌遺伝子が検出された例中でのスーパー抗原毒素の産生率は、川崎病群が(SEA 9.5%、SEB/C 38.1%、SED 0.0%、TSST-1 33.3%、.SEG 64.3%、SEH 0.0%、SEI 66.7%)、健常乳幼児群が(SEA 2.9%、SEB/C 28.6%、SED 0.0%、TSST-1 37.1%、SEG 60.0%、SEH 0.0%、SEI 60.0%)であり、スーパー抗原の分布パターンには、両群間で差異を認めなかった。しかし、培養を行った全例中でのスーパー抗原毒素の検出率を川崎病群と健常乳幼児群との間で比較すると、SEA、SEB、SECといったスーパー抗原の頻度は川崎病群で高く、年齢が増加するにつれてその傾向は強くなることがわかった。これらのいわゆる古典的スーパー抗原毒素は、SEG、SEIなどの新しく見つかったスーパー抗原毒素よりも、同じ菌株から産生される場合にもより強いスーパー抗原として働くことから、生体内で実際に産生された場合の影響が注目される。
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