血管炎症候群の一つである川崎病は、乳幼児に好発する原因不明の熱性疾患である。川崎病の症状のいくつかは、炎症性サイトカインの過剰反応(高サイトカイン血症)として説明できるが、この過剰反応のtriggerとなり得る因子としては、何らかの病原微生物による感染を考える者が多い。本研究では、川崎病の発症に、黄色ブドウ球菌が産生するスーパー抗原毒素が関与する可能性について明らかにする目的で、1997年から2000年の4年間にわたって、川崎病患者の咽頭および直腸拭い液からの黄色ブドウ球菌およびスーパー抗原毒素の検出頻度について調査した。これまでにTSST-1産生菌などの単独調査では有意差が認められなかった状況を踏まえて、従来の細菌学的方法に加えてPCR法を用いることにより、スーパー抗原産生菌の、より系統的な、かつ高い感度での検出を目指した。 その結果、175症例の川崎病患者から黄色ブドウ球菌コロニーの検出頻度は72例(41%)、PCRによる黄色ブドウ球菌関連遺伝子(コアグラーゼ遺伝子、プロテインA遺伝子)の検出頻度は109例(62%)であり、従来の報告(10〜15%)と比べて大幅に増加した。咽頭からの検出率に限って、対照群の乳幼児75例と比べると、コロニー検出率は患者群で有意に高かったが(32%vs16%、p=0.009)、PCRによる検出率には有意差はみられなかった(48%vs44%)。急性期には約60%以上の患者に抗生物質が使用されていたことと合わせて考えると、黄色ブドウ球菌のコロニゼーションが患者群ではより濃厚であったと推察される。さらに患者群ではSEB(13%vs4%、p=0.04)、およびSEC(14%vs4%、p=0.017)の検出率が対照群と比べて有意に高かった。特定の一つのスーパー抗原に限らず、スーパー抗原活性自体が発症に関与する可能性について、今後、臨床免疫学的な検討が必要と思われる。
|