免疫不全状態下において、ウイルスの病原性は正常個体とは異なる場合が多い。ヒトや動物が免疫不全下でのみウイルスに感染発症することから、正常状態での抵抗性機構が解明されることがある。野性マウスの多くは、Fv-4と呼ばれるマウス白血病ウイルスに対する抵抗性遺伝子を持ち、ウイルスの感染を阻止している。このFv-4遺伝子の発現機構については不明な所が多く、免疫抑制剤FK506を投与することによりFv-4遺伝子の作用に影響が出ることが明らかになった。このことからFv-4遺伝子の作用には宿主の免疫能が関係していると考えられる。 SL系マウスは白血病好発系マウスとして、1960年代に日本で分離されたマウスで、骨髄性白血病が多発することが知られている。SL系マウス由来の白血病ウイルスは、他の系統のマウスに造腫瘍性が明らかではなく、造腫瘍性は弱いことが知られている。このSL系由来のマウス白血病ウイルスをCBA系ヌードマウスに感染させたところ高率に骨髄性白血病が発生することが明らかになった。この白血病について、ウイルスの染色体上の組込み場所を調べたところEviIの近傍が多いことが明らかになった。免疫不全動物における日和見発癌とEviI遺伝子との関連について検討中である。 ハムスターの細胞には、in vitroでFriendウイルスが感染することが知られている。マウスレトロウイルスをハムスターに接種しても一般にハムスターの強い免疫能により早急にウイルスは消退し病原性はない。ところが、新生児のハムスターにFriendウイルスを感染させると、強い発育障害が起こり、4週間以内に多くのハムスターがwasting病様の症状で死亡することが明らかになった。免疫不全状態の新生児ハムスターにおけるFriendウイルスの病原性発現機構は明らかではない。
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