本研究はC型肝炎ウイルス(HCV)コアタンパク質(以下コアと略す)によるアポトーシス抑制機構の一貫として、その転写因子NF-κBの活性化分子機構を明らかにすることを研究の主たる目的とした。本年度は細胞のNF-κBの活性化経路におけるコアの作用機序についてさらに解析を進め、またコア分子内のNF-κBの活性化領域を用いて、その領域に結合する細胞性因子の同定を試みた。またNF-κB活性化経路以外にアポトーシスとの関連が報告されているRas/MAPキナーゼ経路に対するコアの作用機序についても解析をおこなった。以下に本年度の研究実績をまとめる。 1.種々のNF-κB活性化刺激のすべてに対してコアによるNF-κB活性化の増幅が観察されたため、コアはこれらすべてのNF-κB活性化経路に共通するメカニズムに影響する可能性が考えられた。 2.種々のNF-κB活性化刺激のすべてに共通する経路に存在するキナーゼIKKβの過剰発現によるNF-κBが活性化もコアによって増幅されることがわかった。 3.コア存在下、非存在下におけるIKKβの活性を検討したところ、IKKβのキナーゼ活性は全く変化しないことがわかり、コアがこの経路のIKKβより下流に作用する可能性が明らかとなった。 4.酵母Two Hybrid Assay系を用いて、コアのNF-κB活性化最小領域と特異的相互作用をおこなう細胞性因子のスクリーニングをおこなった。3種類のヒトcDNAライブラリーを検索することによって数種類の陽性クローンを得ることができた。現在その特異性とNF-κB活性化との関連について検討をおこなっている。 5.コアはアポトーシス制御とも密接に関連するRas/MAPキナーゼ経路を活性化するが、コアはリン酸化反応とは別の機構でMAPキナーゼの下流の転写因子の転写活性を上昇させることを示した。 現在さらにこれらの詳細な分子機構について解析を進めている。
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