研究概要 |
狂犬病ウイルスのRNA結合タンパク(Nタンパク)はりん酸化タンパク質であるが,本研究課題では,そのりん酸化の意義や役割についての検討を主題とするものである. 1)まずNタンパクに対する我々のモノクローナル抗体(mAbと記す)の中から,(1)りん酸化されたNタンパクのみを認識するmAb(#5-2-26),および(2)立体構造的エピトープを認識するmAb(#1-7-11など)を見いだした.これらのmAbを用いて,Nタンパクのりん酸化過程などの修飾,成熟過程を調べた. 2)NタンパクはウイルスRNAに結合してヌクレオカプシド(NCと記す)を構成するタンパク質であるが,NタンパクがRNAに結合する前の段階ではりん酸化されていないことが,りん酸化によって形成されるエピトープを特異的に認識するmAb(#5-2-26)を用いた実験から明らかになった. 3)RNAに結合していないフリーのNタンパクはPタンパクに結合しており,これらはdeoxycholateの存在下で分離し,また分離したNタンパクはどのmAbとも反応しなかった.即ち,フリーのNタンパクのエピトープ部位がPタンパクとの結合により隠れていたわけではないことが示唆された. 4)りん酸化されない変異NタンパクもRNAと結合してNCを形成する.これはNタンパクのりん酸化はRNAに結合してNCを形成する過程あるいは形成した後に起こることを示唆する. 5)りん酸化されない変異Nタンパクを用いた実験や他のmAb(#1-7-11など)との反応性の変化から,NCを形成したNタンパクは立体構造を変化させ,この変化はりん酸化を必要としないことが分かった. 6)このようなRNAとの結合により生じるNタンパクの立体構造の変化はその後に行われるりん酸化の有無に関わらず可逆的で,NタンパクをRNAから剥がすと元の立体構造に戻る. 7)PタンパクはNCと結合すると立体構造を変化させ,NCとの結合がより強固になる.逆に,りん酸化されない変異NタンパクがRNAと結合したNCはPタンパクとの結合が非常に弱いことが分かった. 8)NCに結合した時に起こるPタンパクの立体構造の変化にはNタンパクのりん酸化が不可欠であり,この変化はウイルスRNAポリメラーゼの触媒サブユニット(Lタンパク)の結合に非常に重要であることが示唆された.
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