研究概要 |
鼻粘膜における抗体産生はB細胞から産生されるIgAがそのほとんどを占めている。ビブリオコレラの菌体外毒素であるコレラトキシンを粘膜免疫誘導調節剤として抗原とともに鼻粘膜免疫をしたところ鼻粘膜組織に抗原特異的なIgA抗体価が有意に上昇した。そこで鼻粘膜免疫誘導組織と言われている鼻粘膜関連リンパ組織よりリンパ球を分離し抗原特異的な刺激をin vitroで行ったところ、CD4^+T細胞の活性化が誘導され、この細胞は強いIL-4を中心としたTh2型サイトカインの産生を認めた。一方、鼻粘膜実効組織より分離したCD4^+T細胞を同様に抗原特異的に刺激した結果、B細胞がIgA抗体を産生するのに必要なIL-5,-6と-10の産生を認めた。これらの結果は、経鼻免疫によりNALTに抗原特異的ヘルパーT細胞の活性化が起こり、この細胞が粘膜実効組織にホーミングして抗原特異的な免疫応答を誘導している可能性が示唆された。 一方、本研究結果より鼻粘膜固有層にはIgAを産生するB細胞の種類としてB-1とB-2細胞の2種類あることが明らかとなった。さらに粘膜免疫を司る他のIgAを産生する実効組織として唾液腺や腸管粘膜固有層が挙げられるが、これらの組織中にも鼻粘膜組織と同様に多くのB-1細胞の存在が明らかとなった。このB細胞は、細胞膜にIgA抗体を表出しているsIgA^+B-1細胞がB細胞全体の約10-20%程度存在しているが、Th2型サイトカインであるIL-5のリガンドであるIL-5レセプターを欠損させたマウス(IL-5R-/-)を用いた実験結果では粘膜実効組織中のB-1細胞のみが減少しており、粘膜誘導ならびに実効組織中のB-2細胞数にはほとんど変化を示さなかった。このことは粘膜実効組織におけるIL-5のシグナルがB-1細胞の分化および増殖に寄与し、その結果粘膜面より分泌されるIgA量に大きく影響することが明らかとなった。今後、径粘膜ワクチンを効果的に開発する場合はこのIgA産生B-1細胞の制御も十分に考慮する必要が認められた。
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