研究概要 |
原発性胃がんの10%近い症例で腫瘍細胞中にEBウイルス(EBV)の潜伏感染が確認され、少なくとも一部の胃がん発生にEBVが関与していると考えられている。EBVはBurkittリンパ腫や上咽頭癌などの発がんの原因ウイルスであるが、発がんに至るにはウイルス単独ではなく、コファクターが必要とされる。我々はEBV関連胃がんの発がんのコファクターとしてヘリコバクター・ピロリ菌が関与しているのではないかと考えた。そこで、EBV関連胃がんと非関連胃がんで癌周囲の胃粘膜のピロリ菌感染性変化を観察したところ、EBV非関連胃がんの16例中10例(62.5%)に対し、EBV関連胃がんの8例中7例(87.5%)がピロリ菌感染による慢性萎縮性胃炎を癌の発生母地としていた。このことから我々は慢性胃炎の場でEBVとH.pyloriが協同的に発癌に働いている可能性を報告した。また、ピロリ菌の胃粘膜への感染定着に細菌のウレアーゼ活性が重要であることも報告した。 我々は組換えEBVの大量産生システムを構築した(J Virol70,7260,1996)。この組換えEBVを用いて、従来困難だった上皮系細胞にEBVをin vitroで持続感染させることに成功した(J Virol71,5688,1997)。EBV感染胃上皮細胞ではEBVの持続感染から溶解感染へ誘導が可能であり、胃粘膜上皮細胞でEBVが感染増殖を繰り返すことで胃がんが発生する可能性が示唆された。次に、EBV感染胃上皮細胞でH.pyloriの接着によって誘導される炎症性サイトカイン(IL-8)を調べたところ、非感染細胞に較べ2-5倍の産生が認められた。しかし、IL-8の転写活性化に働く転写因子のうちNFκBは増加しておらず、AP-1やNFIL-6等の他の転写因子の関与についてさらに研究を行なう。
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