研究概要 |
ヒトH3型インフルエンザウイルスHA糖タンパク質の143番目のアミノ酸と受容体結合ポケット近傍の155および158番目のアミノ酸残基がシアル酸分子種の認識に重要であると推定された(FEBS Letter,464,71-74,1999)ため、レセプターポケットに近接する155および158番目のアミノ酸を部位特異的変異導入法により点変異させた3種類のHA糖タンパク質遺伝子cDNAを作製し、CV-1細胞上に単独発現させた。具体的には、A/Aichi/2/68株のHA糖タンパク質遺伝子(wt)の155番目のアミノ酸をThrからTyrに置換させたもの(T155Y)、158番目のアミノ酸をGlyからGluに置換させたもの(G158E)、および155番目と158番目のアミノ酸をそれぞれThrからTyrとGlyからGluに置換させたもの(T155YG158E)を作製した。各HA糖タンパク質のCV-1細胞上での発現は、抗ウイルス抗体を用いたウエスタンブロティング法とモルモット赤血球の吸着試験から確認した。興味深いことに、wtあるいはG158EのHA糖タンパク質を発現させたCV-1細胞は、モルモット赤血球のみを吸着し、ブタ赤血球の吸着性を示さなかった。現在、シアル酸分子種やシアル酸結合様式の異なる合成ガングリオシドと各HA糖タンパク質の結合性を解析している。また、シアル酸を含有しない糖脂質とインフルエンザウイルスの結合機構の解明を目的に、HA糖タンパク質に対する単クローン抗体を作製し、競合阻害試験によりこれら糖脂質とウイルスの結合部位を推定した。その結果、これら糖脂質が、HA糖タンパク質のシアロ糖鎖受容体結合ポケットもしくはその近傍と結合していることが推定された。
|