我々はHIV-1感染細胞の致死機構を明らかにするためにエンベローブタンパクに注目して研究を進めた結果、エンブgp160は宿主細胞内でCD4と複合体を形成すると細胞のプロテアーゼに耐性となり分解されずに小胞体に蓄積し、カルシウムイオン上昇を伴ったアポトーシスで死滅する事が明らかにしてきた。このアポトーシスはカルシウムの上昇により、ミトコンドリア外膜が傷害を受けてシトクロムcが細胞内へ流出することがわかった。しかし、カルシウムイオンはマルチファンクショナルであり最近注目されてきた小胞体(以下ERと述べる)ストレスに付いてさらに検討を加えた。エンブgp160発現細胞UE160はenv遺伝子の518番目のアルギニンをサイトデイレクテッドミウタジェネシスによりセリンにかえたpSMTE7-160を作り、CD4陽性のU937クローン2にトランスフェクションして樹立した。エンブ遺伝子の上流にはヒトメタロチオネインプロモーターがあり、培養液に少量の塩化カドミウムを添加するとgp160が誘導される。ERストレスを受けた場合に検出されるグルコースレギュレーテッドプロテイン(GRP)78mRNAの発現を調べたところUE160ではgp160を誘導して8時間で明らかに増強されたが、U937-2では変化はなかった。ERがストレスを受けると微細構造にどのような形態変化が生じるのか超薄切片法で検討した。ERは細胞質内に存在する嚢状、管状、小胞状あるいは平行層板状の膜系で、その表面にリボゾームが付着したものを粗面小胞体と呼び、付着していないものを滑面小胞体と呼ぶ。UE160のERは分泌細胞などに比べ低発達で、平行層板状をした粗面小胞体と少数のゴルジー装置が観察された。HIV-1 env gp160発現細胞は細胞内カルシウムイオンの上昇を伴ったアポトーシスで死滅するが、そのシグナル伝達経路にはカルシニュリンの活性化を起因としてカスペース3の活性化によるものと、今回示したERストレスに起因するカルペース12の活性化による経路がほぼ同時に進行することが考えられた。
|