種々のシグナル伝達系で細胞内アダプター蛋白質群が重要な機能を果たすことが示されつつある。主にリンパ系組織で発現されるLnkは、SH2ドメインと被チロシンリン酸化部位を持つアダプター蛋白質であるが機能の詳細は不明であった。本研究ではLnkの機能について、lnk欠損マウス(lnk-/-)の作製及びLnk類似蛋白質を同定・解析することにより検討を試みた。lnk-/-では予想に反してT細胞の分化及び増殖は正常であったが、B細胞過剰産生が観察された。B細胞過剰産生はlnk-/-骨髄細胞を正常マウスに骨髄移植することで再現された。さらにlnk-/-未分化骨髄細胞を放射線照射なしにRAG2-/-マウスに移入すると、RAG2-/-骨髄細胞が共存するため正常細胞が生着できないような環境下でも骨髄に生着してB細胞を産生し、lnk-/-前駆細胞が高い増殖分化能を獲得していることがわかった。lnk-/-前駆細胞ではc-kitチロシンキナーゼ受容体依存性増殖が亢進しており、Lnkがチロシンキナーゼ型受容体からのシグナルを抑制してB細胞数の恒常性を維持していることが示唆された。またLnkはこれまでの報告より大きな蛋白質で、SH2及びPHドメインを持ち、SH2-BやAPSとともに新しいアダプター蛋白質ファミリーを構成することを明らかにした。 一方、LnkとSH2-Bの相同領域を指標にして脾臓胚中心で発現するcDNAを単離した。経過中にc-kit結合分子としてヒトAPSが報告され、単離したものはマウスAPSと判明した。SH2-BやAPSがリンパ球にも発現することを明らかにし、さらにSH2-B欠損、APS欠損マウスを作製し解析中である。Lnk類似蛋白質群の作用機構解明は、アダプター蛋白質群の作用機構の理解に貢献し、増殖・分化の新たな制御技術の開発へと応用できる可能性が期待される。
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