トロンボスポンジン(TSP)タイプIモチーフを有する分泌型のADAMファミリー分子であるADAMTS-1の生理活性および生体における役割について調べている。これまで私は、ADAMTS-1が細胞外マトリックス結合性の活性型メタロプロテアーゼであり、また軟骨プロテオグリカンであるアグリカンのコア蛋白を切断する活性を有することを示してきた。本年度、ADAMTS-1によるアグリカンの切断部位を調べ、ADAMTS-1がアグリカンのコンドロイチン硫酸鎖結合領域のE(1872)-L(1873)部位を切断することを明らかにした。関節炎患者の関節滑液中やインターロイキン1で刺激した軟骨組織培養の上清には、IGDドメイン中のアグリカネース切断部位やコンドロイチン硫酸鎖結合領域のgap領域で切断されたアグリカン断片が検出されることが報告されている。ADAMTS-1切断部位はこれらアグリカンのin vivo切断部位の一つに対応することから、ADAMTS-1がアグリカンのturnoverや関節炎における軟骨組織破壊に関わる可能性が考えられる。また(TSP)タイプIモチーフおよびスペーサー領域からなるADAMTS-1のC末端側領域は硫酸化グリコサミノグリカンに結合する領域であるが、このC末端側領域を欠損させたADAMTS-1の変異体ではアグリカン分解活性が消失することから、ADAMTS-1のC末端側領域とアグリカンの糖鎖との結合がその分解活性に必要であると考えられる。一方、ADAMTS-1遺伝子欠損マウスでは、腎臓における腎杯の拡張に加え、副腎髄質組織の構造が異常で多くの空洞状の構造が認められた。またADAMTS-1遺伝子欠損の雌マウスは強い不妊傾向を示すことから、ADAMTS-1は副腎髄質組織の構築や女性生殖器の機能にも必須に関わることが示唆された。
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