現在MHC遺伝子が単離されている最も原始的な脊椎動物グループである軟骨魚類のMHCクラスI分子の解析を基に、脊椎動物における古典的MHCクラスI分子の保存性について詳細な研究を行なった。その結果、T細胞レセプターとMHCクラスI分子の相互作用の基本的特質は、脊椎動物の進化上早期に確立していたことが明らかとなった。即ち、ペプチド結合領域の環境、T細胞レセプターと相互作用しうる領域の環境が、軟骨魚類から哺乳類に至るまで、基本的に保存されていると推測された。また、軟骨魚類MHCクラスI遺伝子構造に関する解析を行なった結果、MHCクラスI遺伝子のエキソン/イントロン構造及び種々のMHCクラスI遺伝子転写調節に関わるDNA配列が、脊椎動物において高い保存性を有している事が明らかになった。さらに、MHC遺伝子領域の構造保存性に関して、MHCクラスI及びクラスII遺伝子両者の連鎖について解析を行ない検討した。同腹魚を用いたサザン解析の結果により、これらの古典的MHC遺伝子が連鎖して存在する事が判明した。硬骨魚類においてはMHCクラスI、クラスII遺伝子が連鎖せずに別の領域に存在することが報告されているが、哺乳類を含めた他の脊椎動物グループと共通して、軟骨魚類ではこれらの遺伝子が近接して存在する事が明らかになり、その連鎖は4億数千万年前より存在している事が示唆された。以上のごとく、本研究により、MHC遺伝子の分子進化に関する数々の重要な知見を得ることができた。
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