研究概要 |
本研究では、疲労が蓄積した状態である「過労状態」を見つけ出し、最終的な「過労死」を食い止める客観的な指標を確立し、有効な労働衛生管理の手法を確立することを目的として研究を遂行した。その指標としては近年注目を浴び、臨床的な研究も多くなされている心拍変動解析法を選択し、その基礎的な実験による妥当性の検討を行った。また、実際にそれを用いて「過労死」を防ぐための具体的な方策を探った。 1.心拍変動解析法の妥当性について a.副交感神経系の指標としての検討:心拍変動解析法を用いたパワースペクトラムからみると、呼吸周波数と高周波帯域(HF)のスペクトラムの周波数が一致していた。呼吸数の増加とともにHF値は有意差をもって減少し、LF/HF値は増加した。また実験前後で血中酸素濃度に関しては有意差はなかった。b.脳波と心電図の関連:脳波を5分間隔でステージ判定し、その時間帯の平均HF値、LF/HF値を算出したものとの関係を検討した。夜間睡眠(0:004:00)に比べ、昼間睡眠(12:0016:00)は全ステージでHF値が低く、特に夜間と昼間のREM,NREM睡眠中のHF値は有意に減少した。それに対し実験一週間後では、昼間睡眠の全ステージでHF値が上昇しているが、初日と同様に夜間と昼間のREM,NREM睡眠中のHF値は有意に減少していた。 2.過労死予防のためのモニタリング a.生活習慣の検討:交代制勤務者と常日勤者との生活習慣の得点を比較すると、総得点では有意差を見なかったものの、9つのカテゴリーのうち、朝食の摂取・間食の有無・栄養のバランスの3つのカテゴリーで有意差(p<0.05)が見られ、常日勤者の方が「良い生活習慣」を持っていることがわかった。20代から50代での「良い生活習慣」を持っていると答えたものの比率をみると、睡眠時間や飲酒、運動などの生活習慣で年代に反比例してその比率が多い他は、ほとんどが年代に比例して比率も上がっていた。特に総得点において30代が最も低く、50代が最も高かった。b.加齢による検討:生活習慣で差が見られた30代と50代について、日勤時と夜勤時の心拍変動解析によるHF値の24時間モニタリングの経時的変化を見ると30代は睡眠中のHF値が日勤・夜勤とも上昇しているのに対し、50代は日勤時には睡眠中のHF値が若干あがっているものの、夜勤時には睡眠中も勤務中もあまり変化がなかった。次に勤務中と睡眠中のHF値の平均を比較すると30代の睡眠中HF値は日勤時も夜勤時も常に勤務中より高いのに比較して、50代の睡眠中HF値が夜勤になると勤務中よりも下がっていた。
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