研究概要 |
我々が単離したヒトN-アセチルグルコサミン-1-リン酸ウリジル転移酵素遺伝子(UAP1;AGX1)産物は、精巣及び精子に局在することが知られている。ある種の男性不妊症患者では血中にこの遺伝子産物の抗体が存在していることから、男性不妊とUAP1タンパク質の自己免疫との関連性が示唆されているが、証明されていない。そこで、両者の関連を調べるために、はじめに、UAP1遺伝子をglutathione S-transferaseとの融合タンパク質として大腸菌内で発現し、glutathione Sepharoseカラムにより精製した。得られた精製タンパク質をウサギに接種し、抗UAP1血清を得た。さらに、抗血清よりIgG画分を調製し、GSTタンパク質で吸着することにより、UAP1特異的なIgG抗体を作成した。精製したUAP1融合タンパク質を用いて、内分泌かく乱作用が知られているTCDD,DDE,エストラジオール、ビスフェノール、フタル酸エステル、ケトコナゾールによる試験管内でのUAP1酵素活性への影響を検討したところ、何れの化合物も酵素活性へは直接影響を及ぼさなかった。また、亜鉛、銅、砒素、カドミウムなどの金属イオンも.酵素活性を阻害しなかった。従って、内分泌かく乱物質が直接UAP1タンパク質の酵素活性を阻害することにより男性不妊症を引き起こす可能性はほとんどないと考えられた。また、男性不妊症患者2名の血清について精製したUAP1融合タンパク質を用いてELISAを行ったが、UAP1タンパク質に対する抗体は検出されず、対照者と同様であった。従って、今後さらに多くの男性不妊症患者の血清について検討を加え、UAP1タンパク質に対する抗体が検出された患者については、UAP1タンパク質の酵素活性について検討を加える予定である。
|