亜鉛欠乏の血圧および血行動態に対する影響を調べるために、ラットに亜鉛欠乏食を4週間給餌して亜鉛欠乏モデルを作成し、その血圧および腎血流動態を調査した。すなわち、麻酔下にて左鼠径動脈に挿入したカテーテルを通して平均血圧を測定し、同時に左腎動脈に設置した超音波プローベにより腎血流量を測定した。また、これらの値から腎血管抵抗を算出した。その結果、亜鉛欠乏は血圧には影響を与えないが、腎血管抵抗を有意に上昇させ、腎血流量を有意に低下させることが観察された。次にこの機序に対するnitric oxide(NO)の関与を調べるために、NO synthase(NOS)inhibitorであるL-NAMEとNO donorであるsodium nitroprusside(SNP)がこの亜鉛欠乏の腎血行動態に対する効果にどのような影響を及ぼすか、について調査した。その結果、L-NAMEを静注した場合には、コントロール群と亜鉛欠乏群に同様の効果が見られるのみで、亜鉛欠乏群がコントロール群に対して腎血流量が低下している傾向には変化をもたらさなかった。すなわち、この機序にはNOSが関与している可能性は小さいものと考えられた。一方、SNP静注により、コントロール群と亜鉛欠乏群の腎血行動態の差は縮小した。すなわち、NOを過剰に与えると両群の差は少なくなることから、亜鉛欠乏ではNOの不足により腎血管抵抗が増大する可能性が示唆された。以上のことから、亜鉛欠乏が腎血管抵抗を増大する機序にはNOSは関与してしないがNOは関与していることが示唆された。亜鉛欠乏が進むとCu/Zn superoxide dismutase活性が低下することから、superoxide(O^<2->)の上昇が示唆される。亜鉛欠乏ではNOSによるNO合成にはあまり影響を与えないが、このO^<2->の上昇がNOの低下をもたらしているのかもしれないと考えられた。
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