目的 in vivo実験により、トリクロロ酢酸のアサリ体内での動態を検討し、研究者らが先に見出した野外に生息しているアサリのトリクロロ酢酸含有の原因を究明する。 実験方法 トリクロロ酢酸水溶液10、1、01mg/lのそれぞれ1l中にアサリ5個を入れ、10℃温度設定のインキュベーター内で24時間飼育して、飼育後速やかに冷凍した。その後、2つの実験を行った。実験(1);解剖後、殻内全量(肉部と体液)をホモジネートした後、重量を測定し、50ml容共栓付遠沈管に入れ、トリクロロ酢酸の分析を行った。また、実験(2);肉部を入出水管、足、中腸腺および外套膜の4部位に解剖して、部位別にトリクロロ酢酸の分析を行い、各部位の濃度分布を観察した。 結果および考察 実験(1);トリクロロ酢酸水溶液10、1、0.1mg/l飼育のアサリ中のトリクロロ酢酸濃度の平均値±標準偏差(取り込み割合)はそれぞれ、4.82±0.21mg/kg(48.2%)、0.78±0.04mg/kg(78.0%)、0.09±0.00mg/kg(90.0%)であり、全ての実験区において取り込みが認められた。特に低濃度の場合において傾向は顕著であった。実験(2);肉部の4部位におけるトリクロロ酢酸濃度分布は、3濃度の実験区全てにおいて同様の傾向が見られた。トリクロロ酢酸濃度は入出水管、中腸腺、外套膜、足の順に高かった。以上の成績から、研究者らが見出した野外採取のアサリのトリクロロ酢酸含有の一因として、トリクロロ酢酸による水系環境汚染が原因となり、体内蓄積された可能性が推察された。また、アサリの水管における高濃度の分布は、本化合物のタンパク質との結合性を示唆している。さらに、中腸腺にも分布していることから、アサリ体内におけるジクロロ酢酸等他化合物への代謝も考えられる。
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