本研究の目的は、実際の寒冷作業で日常経験するような断続的な繰り返し寒冷曝露により誘発される対寒反応と生体負担の特徴と問題点を明らかにすることであり、人工環境室での寒冷曝露モデル実験と現場調査を実施して以下の知見を得た。 1.手指の断続冷却実験の結果、寒冷痛や寒冷感覚などの主観的知覚が、手指末梢部の冷却の進行と凍傷発生リスクの増大を監視・警告する自覚的徴候として信頼できる鋭敏な指標にならない条件が明らかになった。 2.全身の断続冷却実験の結果、温暖休憩条件を挿んでも深部体温は低下し続け循環系負担の増大と手指作業パーフォーマンスの低下が見られる場合があった。温暖休憩時に発現する快適感や温暖感覚は、低体温の進行や生体負担の増悪を監視するための信頼できる指標とはならないことが示された。この現象は、体温調節の温度情報統合様式における相乗統合モデルで説明できると考えられた。 3.冷凍倉庫業、食品工場、厳冬期の屋外電気通信工事業の現場調査の結果、作業者の主観的感覚とは無関係に全身および手指末梢部の冷却が進行している事例が多く、上記の実験結果が裏付けられるとともに、現場の経験による防寒対策が有効でないことが分かった。 4.寒冷作業を遂行する際に、作業者自身の知覚や主観的判断に依存して防寒対策を講じたり作業-休憩スケジュールを設定したりすると、気づかぬうちに身体末梢部の過冷却や凍傷発生のリスクが増大したり、深部体温の低下が進行して生体負担が増悪する可能性が示された。 5.以上の知見より、現場での経験や作業者の主観的判断に依存しない合理的な寒冷作業管理手法を今後確立する必要がある。そのために防寒服・防寒具の保温性能の試験法の標準化とその試験結果にもとづいた寒冷曝露限界値を明らかにする研究を計画している。
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