本研究は、高齢者の咀嚼機能の状況と全身の健康状態の関連性に関する縦断研究の初年度にあたるため、調査地域の高齢者の咀嚼機能と全身の健康状態についてべ一スラインサーベイを実施し、両者の関連についてcross-sectionalと解析を行った。対象者は、277名(男性114名、女性163名)の前期高齢者であった。調査項目は、感圧フィルムを用いた咬合力測定、摂取可能食品調査による咀嚼スコア算出、PGCモラールスケールを用いたQOL評価ならびに生活習慣等であった。 Cross-sectional解析の結果、地域高齢者の咀嚼スコアは、PGCモラールスケールで評価されたQOLレベルと有意な関連性を示した。PGCモラールスケールの3つの階層(心理的動揺・安定に関わる因子、老化に対する態度に関わる因子、孤独感・不安感に関わる因子)のうち、特に「老化に関わる因子」が咀嚼スコアと密接に関連していた。また、この傾向は、咀嚼に関する高齢者自身の主観的な自己評価とPGCモラールスケール値との間にも認められた。また、高齢期の全身の健康状態に大きな影響を当たる生活習慣との間には、食事ならびに間食摂取などの食生活に関するものが、特に咀嚼機能と大きく関係していた。 本研究の結果より、咀嚼機能の向上は食生活状況の改善を通して、最終的に全身の健康状態の向上に寄与するとの仮説が構築された。次年度以降は、経年的変化を追跡しながら、初年度でのcross-sectional調査で得られた仮説を立証していく予定である。
|