研究概要 |
1998年7月下旬〜8月上旬と11月中旬に長野県農村部で実施された一般健康診査受診者2,832名のうち、20〜69歳の女性1,429名から、既往歴として肝疾患、腎疾患、糖尿病、甲状腺疾患、痛風と腹部手術歴を有する者、および現喫煙者、前喫煙者を除外した集団を設定した。問診では日常身体活動を知るための「仕事や家事でからだをよく動かすと思うか」という質問に関して聞き取り調査を行った。身体計測としてはBody Mass Index(BMI、kg/m^2)、ウェストヒップ比(WHR)を計測により求め、栄研式キャリパーを用いて、上腕背部(二頭筋部)と肩甲骨下端部での皮下脂肪厚を計測した。さらに超音波計測機器SonoAce 600(Medison社)を利用して、座位にてBモード下で上腕背部と肩甲骨下端部での皮下脂肪厚を計測した。また同機器により仰臥位にて胸骨下端部約2cmでの皮下脂肪厚と前腹膜脂肪厚、および臍上部約2cmでの皮下脂肪厚を求め、それぞれをSmin、Pmax、Smaxと命名し、PmaxとSminの比をAFI(Abdominal Wall Fat Index)として算出した。最終的な分析対象者数は、1,036名であった。 このうち、1996年実施の一般健康診査も受診し、その時点で40歳代でありかつ閉経前であった202名の女性については、健診受診時に同意をえて採取・分離された血清が-80℃で凍結保存されていた。これらの血清については、leptin濃度の測定を行い1998年にえられた肥満度指標や体格・脂肪厚計測値との関連を分析した。 分析の結果、仕事や家事などの日常生活で身体活動が高い群では、キャリパー、超音波のいずれを用いた脂肪厚の計測値とも有意に低い値を示していた。腹部でのPmaxの値は、腹腔内の内臓脂肪の量を反映すると指摘されており、高い身体活動は身体各部位の皮脂厚、腹腔内脂肪のいずれをも低下させる可能性が示唆された。血清脂質としてのLDLコレステロール値は、腹部での超音波による皮下、内臓のいずれの脂肪厚とも有意な関連を示しており、上腕背部や肩甲骨下端部での皮脂厚とは関連がみられなかった。上半身肥満の指標といわれるWHRも、腹腔内脂肪の蓄積程度を示すAFIもLDLコレステロール値とは関連がなかったことから、相対的な評価値である比ではなく、絶対的な腹部での脂肪厚がLDLコレステロールの上昇に関連する要因であるといえる。 血清leptinの値はBMIと負の関連をもち、またBMI、年齢、身体活動を交絡要因とした共分散分析でも、leptinの値は負の方向に関連を示した。ただしleptinが有意な関連を示したのはキャリパーによる肩甲骨下端部での皮脂厚との間だけであり、キャリパーでの上腕背部皮脂厚とも弱い負の関連を示すものの、その他の脂肪厚とは明らかな関連がみられなかった。腹部脂肪厚の値がLDLコレステロールと有意に関連したことは、コレステロール代謝に与える影響が、脂肪組織の局在により異なることを示唆するものである。
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