ジメチルアルシン酸は、ヒ素化合物とそれらの代謝産物の中で最も強い細胞周期撹乱誘導物質である。この研究は、ヒ素の発癌性についての更なる理解を得るために実施した。チャイニーズハムスターV79細胞において、ジメチルアルシン酸は、細胞死と有糸分裂捕捉を有意に誘導し、これらは投与量に依存していた。これら2つの現象は密接に関係があるようだった。低い濃度(20μg/ml未満)のジメチルアルシン酸は細胞毒性を示さなかったが、有意に有糸分裂捕捉を誘導した。抗αチュブリン抗体を使った間接免疫蛍光法分析評価により、ジメチルアルシン酸が分裂中期細胞において、いろいろな異常紡錘体の形成を誘発することを明らかにした。紡錘体極の偏在は主に50μg/mlで観察され、紡錘体極距離が対照細胞と比較して短くなるようだった。濁度分析評価によると、GTP存在下では、ジメチルアルシン酸は28.4μg/ml未満で有意にチュブリン重合を抑制する一方で、GTPの添加なしでは、GTP作用を模倣した。さらに、ジメチルアルシン酸はチュブリンからのGDP放出(すなわちGTPase活性)をアロステリックに阻害した。ジメチルアルシン酸のチュブリン-ダイナミクス及び微小管-ダイナミクスにおける影響は、チュブリン-GTPase活性への影響と密接な関連があるかもしれない。我々の発見は、ジメチルアルシン酸がチュブリンを目標物として、分裂中期細胞において微小管ダイナミクスを混乱させた結果、異常紡錘体形成と有糸分裂捕捉が生じることを示している。したがって、ヒ素発癌性のメカニズムを理解するためには、今回のような低い濃度においてのジメチルアルシン酸の影響に、焦点を合わせることが重要である。
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