有機ヒ素化合物ジメチルアルシン酸(DMA)が細胞分裂阻害を誘導することはよく知られている。今回阻害の機構を調べる目的で、V79細胞を用い、紡錘体形成に及ぼす影響を蛍光抗体法で、およびtublinの集合に対するDMAの影響を濁度法で調べた。蛍光抗体法実験ではDMA濃度の増加に伴い、細胞増殖が阻害され、分裂指数が上昇した。また異常な紡錘体(低濃度では多極、高濃度では紡錘体の形をなさない)が多く観察された。一方精製tubinを用いた集合実験ではDMAは濃度によりtublin重合を阻害する場合と、異常なpolymerizationを誘導する場合があることが示唆された(以上の結果はApplied Organometallic Chemistryにacceptされた)。キャピラリー電気泳動を用いてtublinのGTPase活性を測定する方法を開発し、DMAの影響を調べた。その結果DMAはGTPase活性をある程度(約50%)阻害することが明らかになった。これらの結果はDMAが細胞に与える影響の表現型は濃度によって多彩になることを示していると考えられる(以上の結果はTohoku J.Exp.Med.より刊行された)。 ほ乳動物におけるヒ素の代謝を明らかにする目的で今年度はラットを用いて有機ヒ素化合物アルセノベタイン(AsBe)の代謝実験を行った。AsBeを経口投与(20mg/kg)し、経時的に強制排尿させ、尿中のヒ素化合物をIC-ICP-MSで測定した。大部分のAsBeはそのまま48時間以内に排泄され、排泄のピークは2時間以内であった。ごく少量がトリメチルアルシンオキサイド、DMA、モノメチルアルソン酸、テトラメチルアルソニウムイオン、未同定ヒ素化合物に代謝された(以上の結果はApplied Organometallic Chemistryにacceptされた)。
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