次の3つの課題について研究を行った。 1)サリドマイド胎芽病者の追跡調査:30歳代の8年間の動向 2)サリドマイド胎芽病者の精神保健調査:GHQ-28による追跡調査 3)サリドマイド胎芽病者の心理検査(A.ロールシャッハテスト、B.YG性格検査、C.HTPテスト)である。 1)30歳代の8年間において、専業主婦を含む就労者は8割を越え、おおむね社会生活に適応していた。福祉施設在所・通所者、自宅療養・求職者等はほぼ一定であり、適応・自立上、何らかの問題がみられた。それらは、精神障害、重複障害、適応障害などであった。それらの事例について問題状況に応じて社会的支援の視点から問題点を検討した。 2)サリドマイド胎芽病者に対して30歳代前半の1994年時点と30歳代後半の2000年時点においてGHQ-28を実施し、その推移を検討した。四肢障害群では、30歳代前半に比して30歳代後半の方が精神的な健康度が高くなっていることが認められた。一方、聴力障害群では30歳代前半よりも後半になるにつれ、精神的健康度がやや低下傾向にあり、特に抑うつ的な傾向がみられた。 3)サリドマイド胎芽病者に、A)ロールシャッハ・テスト、B)YG性格検査、C)HTPテストを実施し、障害群別比較、健常対照群との比較を行い、サリドマイド胎芽病者の人格特徴を検討した。質問紙法と投影法の技法による違いにより意識水準の異なった側面が捉えられ、心理的補償(compensation)作用が働いているものと考えられた。また、描画特徴として「手」の描写(「手の省略」「ポケットに入れた手」「後ろに回した手」)から「手へのこだわり」が考えられ、同性像で有意に認められ、異性像ではあまりみられなかったところから、いわば自己イメージの投影が表現されていると考えられた。
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