研究概要 |
ABO式血液型遺伝子の特徴として、転写開始点周囲の約1.3kbの範囲がCpGアイランドになっていること、上流約1kbに互いに逆向きとなるAlu配列が存在すること、上流約3.8kbに43bpの繰り返し配列(ミニサテライト)が存在していることが挙げられる。様々な長さの上流域を含むレポータープラスミドを用いたプロモーターアッセイから、胃癌細胞と赤白血病細胞において転写開始点付近の-117/+31の範囲がプロモーターとして機能を持つことが明らかとなった。ところで、CpGヂヌクレオチドのC残基のメチル化が転写抑制に関わることが知られているため、DNAメチレーションが血液型遺伝子の転写制御に関わるか否かを調べた。胃癌(MKN28,MKN45,KATOIII)、赤白血病(K562,HEL)、T-lymphoma(Jurkat)、脳腫瘍(T98G)由来の培養細胞について、RT-PCRを用いて血液型遺伝子の発現状況を調べ、またgenomic bisulfitesequencingを用いてプロモーター領域のメチレーション状況を調べたところ、遺伝子発現とプロモーター領域のメチル化は逆相関することが判った。これらの細胞についてメチル化されていない-117/+31領域を用いたプロモーターアッセイを行うと、細胞の血液型遺伝子の発現の有無に関わらずにプロモーター活性が認められ、メチル化したレポーターを用いると活性が低下するので、血液型遺伝子ではプロモーター活性の抑制を介した転写調節が行われていることが予想された。次にDNAメチルトランスフェラーゼの阻害剤5-aza-2'deoxycytidineを血液型抗原の欠落している胃癌細胞株MKN28に添加すると、プロモーター領域のメチル化の解除と遺伝子発現が観察された。以上から、ABO式血液型遺伝子の転写調節にはプロモーター領域のメチル化が関与していることが示され、組織特異的な発現や癌細胞における血液型抗原の欠落に関与していることが推測される。
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