研究概要 |
脳脊髄液、眼球硝子体液および心嚢液の薬物濃度に基づき、死体血における薬物検出値を中毒学的評価に利用するための客観的判断基準を作成することを目的とした。脳脊髄液、眼球硝子体液、心嚢液および諸種血液試料(肺動脈血、肺静脈血、左心血、右心血、大動脈血、下大静脈血および大腿静脈血)の採取が可能であり、かつ腐敗現象がほとんど認められなかった薬毒物関連剖検11例を本研究の対象とした。検出された薬物は12種類で、累積検出頻度は16であった。血中薬物濃度は血液採取部位により値が大きく異なったが、右心血中薬物濃度は検討したすべての事例において大腿静脈血中薬物濃度に極めて類似した値を示した。脳脊髄液、眼球硝子体液および心嚢液の3試料又はいずれか2試料の薬物濃度の平均値を求め、大腿静脈血中薬物濃度に対する比をみてみたところ、脳脊髄液、眼球硝子体液および心嚢液の平均薬物濃度および脳脊髄液と心嚢液の平均薬物濃度においてほぼ1(それぞれ0.99±0.21,n=11および0.94±0.20,n=16)を示すことが明らかとなった。通常の剖検死体では、脳脊髄液と心嚢液は薬物分析に十分な量が得られるが、眼球硝子体液は採取量が限られていることから、法医学実務面では脳脊髄液と心嚢液の平均薬物濃度が有用である。そこで、脳脊髄液と心嚢液の薬物濃度の平均値を利用し死体血中薬物濃度を客観的に検証するための方法を検討した結果、以下のような判断基準を考案することができた。1)血中薬物濃度に対する脳脊髄液と心嚢液の平均薬物濃度の比が0.6-1.4であれば、死体血中薬物濃度を中毒学的評価に使用できる。2)同比が上記範囲外にある場合には、脳脊髄液と心嚢液の平均薬物濃度を血中薬物濃度の代替として使用すべきである。
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