頭頸部外傷によって脳血管が障害され、脳内出血や脳梗塞、あるいは動脈瘤などが発生することがある。しかし、これらはある程度時間経過後に症状が発現するので、外傷と傷病との因果関係の判断に悩まされることがある。そこで、法医解剖例のうち、致死的脳血管障害例において合併した障害血管のデータを蓄積し、頭頸部外傷による脳血管障害の発症機序を解明することを本研究の目的とした。 1.剖検死体を常法に従って胸腹腔を開き、胸腹部臓器所見を確認後、心臓を摘出し、頸部皮切により頚部所見を確認後、左右内頸動脈を確保した。まず、造影剤注入条件を確定するため頭頚部外傷のない症例を対照として、造影剤量、ゼラチン濃度、注入速度などを検討した。造影剤注入摘出脳をホルマリン固定後、視交叉を基準に前額断にて切断し、この標本を軟線撮影装置にて撮影した。更に、脳損傷例では損傷部位標本を作製し、組織染色を行った。 2.対照標本では、軟線撮影により主幹動脈から分岐する微細な穿通枝まで明瞭に造影され、造影剤注入条件を確定できた。 3.外傷性くも膜下出血例では出血量が多いと出血部位の特定に難渋するが、造影剤を注入すると、血管障害部位より造影剤が漏出している所見を確認できた。この部位を標本としたエラスティカ・マッソン染色により血管断裂所見が得られた。 4.脳挫傷症例では病変部位への造影効果を認めず、周囲の微小血管にも造影剤が流入していなかった。病変による圧迫や血管自体の損傷による閉塞が考えられるが、今後、受傷の時期および病変の程度と造影効果の関係についての検討を進める必要がある。 次年度も更に症例数を蓄積し、外傷による血管障害の発生機序を解析する。
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