研究概要 |
頭頚部への外力作用による血管壁の損傷から,二次的に血管閉塞や動脈瘤・動静脈瘻などを生じることがある。平成12年度の研究は、脳血管障害発生機序の基礎的知見を得るために、過去の司法解剖例のうち頭部外傷と頭蓋内血管損傷との関係を解析した。 1.まず、車両衝突という強大な外力が人体へ作用した場合に脳底部動脈にどのような損傷が生じるかを解析した。過去15年間に行われた司法解剖総数922例のうち、交通事故司法解剖例は151例であり、その中で延髄・頚髄損傷が認められたものは25例(交通事故例中2.7%)であった。これらの脳底部血管損傷の合併は、延髄損傷群では延髄部分断裂9例中4例、延髄離断6例中2例、合計15例中6例(40%)に脳底部血管損傷の合併を認めた。血管損傷部位は、脳底動脈離断3例、脳底動脈・後大脳動脈分岐部離断2例、脳底動脈・椎骨動脈分岐部離断1例であった。一方、頚髄単独損傷群では頭蓋内血管損傷の合併を認めなかった。従って、脳脊髄への牽引力は脳底部動脈断裂の必要条件ではあるが、牽引力だけに影響されるのではなく、別の要因も加わっていることが示唆された。 2.次に、比較的軽微な頭頸部への外力で発生することがある単独性外傷性くも膜下出血(Isolated Traumatic SAH,ITSAH)を解析した。ITSAHは椎骨脳底動脈領域の損傷により発生するので、脳底部の血管損傷は動脈解離を超える損傷と捉え、当教室における1883年1月-1999年12月の17年間の司法解剖1008例から致命的頭部外傷169例(16.8%)を抽出した。これら頭部外傷のうち、死因が単独性外傷性くも膜下出血と判断されるものは14例(8.3%)であったものの、車両による轢過38例を除いて頭部外傷131例と比較すると、致命的頭部外傷に占めるITSAHの割合は10.7%であった。これら14例を分析した結果、発生機序としては頸椎を中心とした頭部への急激な回転力が再確認された。危険因子としては飲酒が再確認され、椎骨動脈径の左右差も危険因子の可能性が示唆された。更に、外力により複数の血管に障害が生じることが判明した。
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