覚醒剤乱用者の突然死症例に見られる心病変への覚醒剤(MAP)の直接的な関与を調べるため、心室筋細胞を単離培養し、MAPを暴露して形態変化を観察した。10%血清(FCS)添加培養液中で単離培養直後よりMAPを暴露して7日間観察した結果、MAP濃度が0.5mM以上で明らかな形態変化を観察し、殆どの細胞がculture dishに接着できず細胞死を生じた。ところが0.1mMの暴露群では、細胞の最大面積がcontrol群に比し増大する傾向が観察された。そこで、0.1mM以下のMAPの長期暴露が単離心筋細胞の長期培養に見られるcell sizeの増大現象、即ち、cellular hypertrophyを促進するのではないかという仮説について実験を試みた。単離後、6日間10%FCS存在下で培養した後、0.01〜0.5mMMAPを7日間暴露し、その形態変化、特に細胞の最大面積を染色後共焦点レーザー顕微鏡画像解析装置で測定解析を行った。その結果、0.5mMを除くMAP暴露群でcontrol群に比べ有意な最大面積の増加を観察した。同時にcardiac hypertrophyの指標の一つに挙げられるatrial natriuretic peptide(ANP)の細胞内発現を免疫組織学的に観察すると、暴露群でANP positiveな細胞の増加を観察した。このcell sizeの増大促進現象は、各種成長ホルモンやカテコールアミンなどを微量に含むFCSの存在しない条件下においても観察された。一方、0.5mM暴露群では微小管や筋原繊維の断片化などの構造障害が免疫組織学的に観察され、cell sizeの増大は観察されなかった。以上の結果より、MAPは高濃度の長期暴露により細胞骨格に障害を及ぼし心筋細胞は細胞死を生じ、また、低濃度の暴露では、cellular hypertrophyを促進する働きを有することが示唆された。現在、MAPのcellular hypertrophy促進作用に関して、antagonist作用実験によりα-adrenergic receptorを介している可能性を見出しており、更に細胞内のシグナリングについて研究を行っている。
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