肺サーファクタントを指標とした呼吸不全の法医病理診断基準の確立

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11670425
• 研究機関: 大阪市立大学
• 研究代表者: 前田 均 大阪市立大学, 大学院・医学研究科, 教授 (20135049)
• 研究分担者: 朱 宝利 大阪市立大学, 大学院・医学研究科, 助手 (30305619) ; 藤田 眞幸 大阪市立大学, 大学院・医学研究科, 講師 (00211524)
• キーワード: 肺サーファクタント関連タンパク質A / 呼吸不全 / 急性呼吸促迫症候群 / 死因 / 窒息 / 肺胞傷害 / 肺硝子膜症 / 生存時間

研究概要

呼吸障害・不全の法医病理学的客観的診断基準を作成するため、前年度までの研究成果に基づき、剖検例について肺サーファクタント関連タンパク質A(SP-A)に関する免疫組織化学的・生化学的指標の多角的検査をルーティンに行い、それらのデタを総合的に分析・評価した。その結果、呼吸障害・不全の病態は以下のように分類され、重症度の客観的評価も可能であることが示された。
(1)急性窒息・末梢性呼吸障害型:SP-A免疫染色における顆粒状SP-Aスコアの増加あるいはSP-A1/A2mRNA比の上昇。(2)肺胞傷害型:SP-A免疫染色における膜様SP-Aスコアの増加あるいは血清SP-A濃度の増加。(3)両者((1)および(2))の合併型。(4)遷延性呼吸障害型:SP-A免疫染色における粗大な顆粒・膜様SP-Aの出現と血清SP-A濃度の増加。
一方、一次性・二次性呼吸障害を鑑別するため、他の種々の指標についても検討した結果、中脳黒質神経細胞ユビキチン染色所見と血中尿酸濃度が窒息・溺死の診断に有用であること、血中クレアチニン濃度が高温熱や低酸素血症による骨格筋傷害の指標となること、血中・心膜液中の心筋トロポニンT濃度が心筋傷害の重症度および持続と関連していることなどが明らかにされた。
上述のように、最終年度にあたり、当初の計画どおりに肺サーファクタントを指標とした呼吸障害・不全の実用的な法医病理学的客観的診断基準を作成し、所期の目的を達成することができた。さらに、各種体液・組織中の他の生化学的指標を多角的に組み合わせることによって呼吸、循環および中枢神経系などの機能障害・機能不全に関する死因・病態の客観的診断("科学的エビデンスに基づく診断":evidence based assessment)のための基準を構築することが可能であることが示唆された。

研究成果

• [文献書誌] Zhu B-L, Ishida K, Oritani S, Quan L, Fujita MQ, Maeda H, et al.: "Immunohistochemical investigation of pulmonary surfactant-associated protein A in fatal poisoning"Forensic Sci Int. 117. 205-212 (2001)
• [文献書誌] Zhu B-L, Ishida K, Oritani S, Quan L, Taniguchi M, Li D-R, Fujita MQ, Maeda H.: "Immunohistochemical investigation of pulmonary surfactant-associated protein A in fire victims"Legal Med. 3. 23-28 (2001)
• [文献書誌] Zhu B-L, Ishida K, Quan L, Fujita MQ, Maeda H.: "Immunohistochemistry of pulmonary surfactant-associated protein A in acute respiratory distress syndrome"Legal Med. 3. 134-140 (2001)
• [文献書誌] Quan L, Zhu B-L, Ishida K, Oritani S, Taniguchi M, Fujita MQ, Maeda H.: "Intranuclear ubiquitin immunoreactivity in of the pigmented neurons of the substantia nigra in fatal acute mechanical asphyxiation and drowning"Int J Legal Med. 115. 6-11 (2001)
• [文献書誌] Quan L, Zhu B-L, Oritani S, Ishida K, Fujita MQ, Maeda H.: "Intranuclear ubiquitin immunoreactivity in the pigmented neurons of the substantia nigra in fire fatalities"Int J Legal Med. 114. 310-315 (2001)
• [文献書誌] 石田香, 朱宝利, 前田均: "窒息における肺病態の指標-サーファクタント関連蛋白質A(SP-A)-"法医病理. 7. 30-34 (2001)
• [文献書誌] Ishida K, Zhu B-L, Maeda H.: "Methods in Molecular Biology : Molecular Toxicology Protocols"TaqMan fluorogenic detection system to analyze gene transcription in autopsy materials(in press).