1)c-fos発現におよぼすストレス刺激の影響 数々のストレス刺激によりc-fos mRNA発現が誘導されることから、c-fos遺伝子上流域にheat shock element(HSE)の存在が想定された。培養細胞を用い、熱ショック、亜砒酸、カドミウムによるc-fosmRNA発現亢進、熱ショックの前処理による抑制を証明し、ヒト・ラット・マウスのc-fos遺伝子上の転写開始点より-450塩基付近に、HSEと考えられるGAAnnTTCnnNNNnnTTCnnNNNnnTTCを同定した。この配列を用いたゲルシフトアッセイによる特異的な核蛋白結合因子の誘導、HSF-1に対する抗体によるスーパーシフトの確認、ホタルルシフェラーゼ遺伝子を用いたレポータージーンアッセイによる配列依存性の転写誘導を証明した。この結果より、ストレス刺激がAP-1活性をも高めるものとして再認識される可能性、あるいはc-fos発現を促進する刺激がHSEに作用するストレスである可能性が示唆された。 2)プロスタグランディンA_1(PGA_1)による転写調節作用 heat shock responseを起こすPGA_1にはc-fos発現促進作用が報告されていないが、ノザンブロットによるc-fosmRNA、ウエスタンブロットによるc-Fos蛋白の時間依存的増加が確認された。さらに、レポーターアッセイによるHSEの関与、ゲルシフト・スーパーシフトによるc-fos遺伝子上の結合活性がPGA_1によって高まることを示した。さらに、PGA_1によってAP-1の活性が高まることもコンセンサスのAP-1 siteを用いたゲルシフトアッセイで検出したが、AP-1依存性の転写調節は認められなかった。この結果はストレス刺激がもつ蛋白合成抑制作用によるものと思われ、事実、レポーター遺伝子産物(ルシフェラーゼ活性)では認められなかったAP-1依存性の転写調節がレポーターmRNAレベルで確認された。またPGA_1刺激の後4時間のwashoutを行うと有意なルシフェラーゼ活性の上昇が認められた。これらの結果は、例えば急速な透析、高浸透圧血症・低浸透圧血症の急激な是正、虚血後の再灌流などのようなストレスからの急速な回復時に起こる様々な病態形成機序に解釈を与えるものと期待される。
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