細胞質型癌遺伝子産物Cblの細胞内機能を解明するため、EGF受容体刺激後のp120^<cbl>の動態に関し解析を加えた。まず野生型Cblあるいは変異型CblをMDCK細胞に発現し、ネオマイシンにて選択し、これらの遺伝子を発現したMDCK細胞系を樹立した。変異Cblとしては、543-548の6連続プロリンをアラニンに変異したプロリンリッチ領域の変異Cblを用いた。野生型Cblおよび変異Cb1の発現量は、ほぼ同様であった。これらの細胞系を用いて、EGF受容体刺激後のCblを中心とする細胞内情報伝達カスケードに関して、比較検討を行った。 p120^<cbl>は、多様な細胞において、顕著にチロシンリン酸化される基質であることがすでに知られている。またin vitroやin vivoにおいてアダプター分子であるGrb2と会合する物質の一つであり、Grb2のN末端側のSH3ドメインを用いて会合することが知られている。Sos1と同様に、Grb2との会合に重要なプロリンリッチ領域を有するが、CblとSos1とは会合しないことが知られているので、CblとGrb2およびSos1とGrb2は別々の複合体と考えられている。 前述のように、Grb2のN末側のSH3ドメインとCblは会合するが、今回の研究で、Grb2との結合に重要な領域をin vivoにおいて詳細に同定した。即ちプロリンリッチ領域の543から548までの6プロリンのアミノ酸部位が変異した細胞系では、Grb2との会合が認められず、この部位が結合に重要であることが証明された。 また同部位のプロリンリッチ領域を変異させた細胞系において、EGF受容体からの刺激後、MAPKのリン酸化が遷延することも合わせて証明した。
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