研究概要 |
ヒト癌細胞が無限に増殖するためにはリボ核蛋白酵素のテロメラーゼが活性化する必要がある。この酵素活性は、生殖細胞、不死化した癌細胞、ある種の幹細胞および末梢血リンパ球に存在し、ほとんどの正常体細胞には存在しないことが明らかにされてきた。我々はテロメラーゼ活性が肺癌組織の80%以上で検出されること、高活性例はp53やRbなどの遺伝子変異蓄積例に多いことを見出し、さらに末梢血リンパ球や骨髄幹細胞での活性は不死化癌細胞に比較して低いことを報告した。テロメラーゼ活性は肺癌のみならずこれまでに調べられた全ての種類のヒト癌細胞で平均80%以上の症例で検出されており、癌細胞のテロメラーゼ活性を抑制することは殆どのヒト悪性腫瘍に有効な抗癌戦略の可能性がある。我々はヒトテロメラーゼの触媒蛋白部分(hTERT)遺伝子の一部をアンチセンス方向に発現するように組み込んだアデノウイルスベクターを作製し、テロメラーゼ活性を持つ癌細胞株、HeLa,LoVo,A549,SW403,VMRC-LCDの各々に感染させ、1〜7日間培養した後、生細胞率、テロメラーゼ活性を測定した。LoVo,VMRC-LCDにおいては生細胞率が低下したがテロメラーゼ活性の有意な低下はみられず、組み換えアデノウイルスの構造上の問題によるものと考えられその改善が今後の課題である。 次いで内因性抗炎症メディエーターのリポコルチン1を発現するアデノウイルスベクターを構築し、A549に感染させたところ、プロスタグランジンE2産生抑制を介した細胞増殖抑制効果が得られたため、今後肺癌の新しい遺伝子治療戦略としてさらに検討予定である。
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