ヒト細胞が無限に増殖するためには、テロメアを延長する酵素テロメラーゼの活性化が必須と考えられるため、これを抑制、もしくは、これをターゲットした癌細胞の増殖抑制戦略を試みた。これまでに、組み替えアデノウイルスベクターを用いたテロメラーゼ蛋白成分hTERTのアンチセンス発現によりテロメラーゼ活性の抑制を試みてきたが、単にテロメラーゼ活性を抑制するだけでは有意な株化癌細胞の増殖抑制効果が得られなかったため、染色体末端のDループの形成に主役を演ずるテロメア結合タンパク質TRF2に変異を導入したドミナントネガティブ蛋白発現ベクターを入手した。これらを、ヒト癌細胞株に導入して細胞増殖抑制をこころみたが、明らかな結果は得られなかった。TRF2の阻害による細胞増殖抑制効果は、p53を介したアポトーシスによるため、p53が不活化されていることの多い癌細胞株では、効果が十分に得られない可能性も考えられた。また、テロメラーゼ抑制による明らかな細胞増殖効果が得られないのは、テロメラーゼ活性も細胞数も集団で検討しているからで、個々の癌細胞におけるテロメラーゼ抑制とアポトーシスは得られている可能性は否定できない。そこで、個々のテロメラーゼ活性を正確に評価する方法の確立をめざした。hTERT抗体を用いた免疫染色を試みたところ、細胞検体であれ、組織検体であれ、テロメラーゼ活性とよく相関する結果が得られた。すなわち、テロメラーゼ高活性癌組織・細胞集団は例外なく染色される細胞の割合が高く、低活性組織・細胞集団では染色されない細胞の比率が高かった。本手技により、多数のテロメラーゼ陽性癌細胞のなかで、個々テロメラーゼ活性が抑制された細胞の存在を検出することが可能となった。
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