研究概要 |
移植片対宿主病(GVHD)は骨髄移植および末梢血幹細胞移植などの造血幹細胞移植治療において重要な合併症の一つである。移植治療後の免疫抑制剤としては1978年にシクロスポリンAが登場してからその治療効果が飛躍的進歩した。しかし、非血縁者間骨髄移植においては未だ重症GVHDの発症頻度は高くCsA,FK506を用いた難治療GVHDに移行する例は少なくない。我々が開発したメタロプロテナーゼインヒビター(MPI)を用いた実験ではIn vivoの動物モデルにおいてGVHDを強く抑制し、また致死的急性GVHDのマウスモデルの実験系でMPIが血清中のTNF-αのレベルを減少、GVHDの臓器病変の改善、生存率を延長する事を報告した。 さらに我々はマウス急性GVHDのモデルにおいて抗TNF-α抗体は消化管病変を改善し抗FasL抗体+抗TNF-α抗体は全てのGVHD病変を改善することを見い出した。この事は、抗FasL抗体+抗TNF-α抗体にて急性GVHDを制御出来ることを意味している。またアポトーシス関連分子であるFasリガンド(FasL)の膜型前駆体を可溶型にプロセッシングする経路をこのMPIが抑制、阻止する作用のあることを明らかにした。この事実はMPIがFas-FasL細胞調節機構にも関与し,GVHDを制御していることを意味する。以上によりMPIはTNF-α,FasLのプロセッシングを制御することによりGVHDを抑制出来る可能性があること,MPIは既存の薬剤、抗体、サイトカイン類より臨床応用の点で副作用、使い易さ等の多くの面で優位と考える。このマウスの実験系は輸血後GVHDの機序と一致しており、その治療薬としても期待が待たれる。さらに我々は最近IgE産生形質細胞腫瘍担癌マウスを用いた骨髄移植の実験系に置いて、MPIがGVHDを制御し、かつ腫瘍の増殖を抑えるいわゆるGVL効果を誘導することを見いだした。この事実はMPIがGVHDを抑制しかつGVL効果を臨床に際し目指すに合致している点が興味深い。
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