研究概要 |
[背景/目的]新しいneuropeptide,orexinは外側視床下部の神経細胞に局在し,中枢性に摂食を刺戟する作用を有する。一方,外側視床下部は胃酸分泌調節に関与する脳内部位であることが知られているので,我々はorexinが中枢神経系を介して胃酸分泌調節に関与するのではないかとの仮説をたてた。[方法]実験には24時間絶食させた雄性SDラットを用いた。胃酸分泌は幽門結紮法により測定した。大槽内に合成orexinを投与し,その胃酸分泌に及ぼす影響を検討した。[結果]orexin-Aの大槽内投与(0,0.6,2.4or9.6オg/rat)は用量依存性に胃酸分泌量を促進した。一方orexin-Bの中枢投与およびorexin-Aの末梢(腹膣内)投与は胃酸分泌に影響を及ぼさなかった。迷走神経の切断またはアトロピンの前投与によりorexin-Aによる胃酸分泌亢進は完全にブロックされた。[考察/結論]以上の成績からorexin-Aは中枢神経系に作用し,迷走神経系を介して胃酸分泌を促進することが明らかになった。これまで,中枢神経系に作用して胃酸分泌を促進することが確立されているペプチドはTRHのみであり,orexin-Aによる胃酸分泌刺戟作用は特異的と言える。この胃酸分泌刺戟作用はorexin-Bにはないことからorexin-AはOX1 receptorを介して作用を発揮すると考えた。orexinが摂食を亢進させる作用があることを考慮すると,orexinによる胃酸分泌促進はパブロフの発見以来明らかにされた脳相刺戟胃分泌のトリガー分子であることを示唆する。脳相刺戟胃分泌は迷走神経依存性に発現することが知られているが,orexin-Aによる胃酸分泌亢進が迷走神経を介したものであるとする本成績は,さらに我々の仮説を示唆する。
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