我々は重症急性膵炎の重症化機序にiNOS、IL-8やICAM-1、VCAM-1の誘導・発現が重要な役割を果たすことを示してきた。これらの発現の転写レベルでの調節に中心的役割を果たしているのがNFκBであった。NFκBの活性化を抑制するpyrolidine dithiocarbamateは致死的膵炎モデルの生存率を改善したが薬剤の特異性と毒性に問題があった。NF-κβは活性化抑制サブユニットであるIκβαと結合し細胞質から核への移行が妨げられるのみならず、核内でもIκβαによるpostinductionリプレッサー効果を受ける。またIκβαは古典的なNLSを持たず、核移行の機序は明らかでなかった。そこでIκβαを核内に強発現させることによりNFκBを抑制する系を作成し重症膵炎モデル動物の致死率に与える効果と機序を検討することを計画した。ブタcDNAライブラリーより開始ATGをBamHIで置換したIκBαcDNAを単離し、NLS-1を接続SV40largeTAgに結合させたコンストラクトの作成を進める一方、核内移行性の高い、非増殖性で免疫源性の低いE1A、E1B、E3を欠損したアデノウイルスを用いたコスミドカセット法による組み換えアデノウイルスベクターを調整していた。しかしIκBαのN-末端36塩基を欠損したNFκBのsuperantagonistであるIκβdNを組み換えアデノウイルスで導入し、NFκBの活性化を抑制するとTNFによるアポトーシスが誘導されること及び、IκBαの核内移行が第二ankyrin反復によることが報告された。従って当初の計画のIκβαの核内発現のためにNLSを接続する意義が薄れ、またIκβαの強発現がアポトーシスを誘導するため致死率を検討する系としては適当でないことが明らかとなり、方法を再検討する必要があると考えられた。
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