エンテロペプチダーゼはトリプシノーゲンをトリプシンに変換する活性化酵素であり、消化管内の蛋白分解におけるイニシエーターと考えられている。これまでに我々は本酵素のcDNAクローニングを通して、その基本構造や局在についての検討を行ってきた。今回その発現調節機構を明らかにするために、遺伝子レベル、蛋白レベルでの発現の検討を行った。またこれまでの検討により、本酵素は十二指腸上皮の最終分化のマーカーであることが強く示唆されている。そこでエンテロペプチダーゼ遺伝子の発現が、副腎皮質ステロイドにより制御されている可能性を探るために、幼若ラットにハイドロコーチゾンを投与し、グルココルチコイドによる本酵素の発現に対する影響について調べた。 RT-PCRによる遺伝子発現の検討では、妊娠19日齢よりmRNAの発現がみられ、20、21日齢で急激な発現量の増加がみられた。出生後は徐々に発現量が増加し、離乳期と考えられる時期より一段と発現量が増加した。活性測定では、遺伝子発現にはやや遅れるものの、離乳期を境に酵素活性が増加した。免疫組織染色でも、酵素活性が上昇するにつれてその染まりも明瞭となった。これらの事実より、本酵素の発現調節は主に遺伝子の転写レベルで行われていると考えられた。一方、ステロイドホルモン投与による検討では、投与後3時間目より著しいmRNA発現の増加が認められ、速やかに発現のピークに達して持続した。このピーク時の発現量は、十分に成熟した成体ラットの発現量にほぼ匹敵する量であると考えられた。さらに、酵素活性による蛋白レベルでの発現量の検討では、遺伝子発現の増加にはやや遅れるものの、ほぼ同様の傾向で酵素活性の上昇が見られた。免疫組織化学による検討でも、投与群では活性がほぼピークになると考えられる48時間目にはbrush borderが濃染し、コントロール群と比べてその違いは明瞭となった。以上より、本酵素はハイドロコーチゾン投与により発現が誘導され、しかもその反応が比較的早期より見られることより、主にステロイドレセプターを介した直接作用と推測された。
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