研究概要 |
【目的】内視鏡的に採取した膵液中に含まれる変異ras遺伝子を定量的に測定し、各種疾患で比較して、膵癌診療における有用性、問題点について検討した。【方法】膵液は、内視鏡的逆行性膵管造影後にセクレパンを静注し、膵管内に挿入した造影チューブより吸引して採取した。膵液よりDNAを抽出後、変異ras遺伝子をキット化されたEnriched PCR+Enzyme Linked Mini-sequence Assay法により定量的に検出した。具体的には変異ras遺伝子量は(-),(+-),(1+),(2+),(3+)の五段階で判定され、それぞれ変異rasの含有量は0,0.2%未満,0.2-2%,2-20%,20%以上である。【対象】これまでに、膵癌41例、粘液産生膵腫瘍26例、膵嚢胞42例、慢性膵炎16例、胆管癌8例、それ以外の非膵疾患35例を含めた計168例を解析した。【結果】疾患別膵液中の変異ras遺伝子の量は、膵癌、粘液産生膵腫瘍の膵腫瘍性疾患例では変異ras検出量が多く、それぞれ41例中22例(54%)、26例中16例(62%)は(2+)以上であった。一方、慢性膵炎を含むその他の症例では、胆管癌1例以外は(-),(十-)と少量であり、変異ras(2十)以上では膵に腫瘍性病変がある可能性が高いと考えられた。例外的に膵に小さな嚢胞を認めた膵褒胞例では42例中17例(40%)が(2+)以上であり、膵腫瘍症例同様に変異遺伝子が多量に検出される症例が多かった。【結論】変異ras量の視点から見ると、現時点では非腫瘍性と考えられる、膵に小嚢胞を有する症例では変異遺伝子が多量に検出されることが多く、現在画像診断上明かではないが何らかの膵腫瘍性病変の存在を疑わせ、膵癌の高危険群となる可能性も考えられた。今後さらに多数の症例を解析し、またras遺伝子以外の膵癌関連癌遺伝子を解析するとともに、これらの患者の経過観察が必要であると考えられた。
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