研究概要 |
画像診断の進歩とともに膵に小さな嚢胞が発見されるようになってきたが、腫瘍性か非腫瘍性か明かではない症例は多い。そこで、この膵嚢胞症例の膵液中の変異ras遺伝子を定量して各種疾患と対比検討した。膵液は、ERCP時にセクレパンを静注し、膵管内に挿入した造影チューブより吸引して採取した。膵液よりDNAを抽出後、変異K-ras遺伝子をキット化されたEnriched PCR+Enzyme Linked Mini-sequence Assay法により検出した。変異ras遺伝子量は(-),(+-),(1+),(2+),(3+)の五段階で判定され、それぞれ変異rasの含有量は0,0.2%未満,0.2-2%,2-20%,20%以上である。これまでに、膵癌51例、粘液産生膵腫瘍44例、膵嚢胞76例、慢性膵炎32例、胆管癌8例、それ以外の非膵疾患39例を含めた計250例を解析した。 疾患別膵液中の変異ras遺伝子の量は、膵癌、粘液産生膵腫瘍の膵腫瘍性疾患例では変異ras検出量が多く、それぞれ51例中29例(57%)、44例中24例(55%)は(2+)以上であった。一方、慢性膵炎を含むその他の症例では、胆管癌1例以外は(-),(+-)と少量であり、変異ras(2+)以上では膵に腫瘍性病変がある可能性が高いと考えられた。膵嚢胞例では76例中22例(29%)が(2+)以上であり、膵腫瘍症例に次いで変異遺伝子が多量に検出される症例が多かった。検出されたK-rasコドン12の変異型に関してはほとんどGAT、GTTで膵腫瘍性疾患例と比較して差は認めなかった。膵嚢胞症例を膵液中変異ras量に従って分類して検討すると、膵液中の変異rasが多い膵嚢胞症例は少ない例と比較して嚢胞部位は膵頭部が多い、ERCPでの造影にて膵管と交通例が多い、膵液細胞診Class3の比率が高まる傾向を認めた。これらの症例は超音波内視鏡、MRCP、腹部CT等の画像診断を中心として経過観察中である。この2-3年の短期経過では変異ras検出量が多かった1例の嚢胞の増大を認めたが、膵腫瘍性疾患の発生はない。今後のさらなる症例の蓄積と長期経過観察が必要と考えている。
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