研究概要 |
画像診断の進歩と共に発見されるようになってきた膵の小さな嚢胞だが、その症状が明らかでなく、又後に膵癌の発生を認めたとの報告もある。そこで、この膵嚢胞症例の膵液中の変異ras遺伝子を定量して各種疾患と対比検討した。膵液よりDNAを抽出後、変異K-ras遺伝子をキット化されたEnriched PCR + Enzyme Linked Mini-sequence Assay法により検出した。変異ras遺伝子量は(-), (+-), (1+), (2+), (3+)の五段階で判定され、それぞれ変異rasの含有量は0, 0.2%未満,0.2-2%, 2-20%, 20%以上である。これまでに、膵癌66例、粘液産生膵腫瘍61例、膵嚢胞89例、慢性膵炎44例、他臓器癌15例、それ以外の非膵疾患42例を含めた計317例を解析した。 疾患別膵液中の変異ras遺伝子の量は、膵癌、粘液産生膵腫瘍の膵腫瘍性疾患例では変異ras検出量が多く、それぞれ66例中39例(59%)、61例中33例(54%)は(2+)以上であった。一方、慢性膵炎を含むその他の症例では胆管癌以外は(-), (+-)と少量であり、変異ras(2+)以上では膵に腫瘍性病変がある可能性が高いと考えられた。膵嚢胞例では89例中26例(29%)が(2+)以上であり、膵腫瘍症例に次いで変異遺伝子が多量に検出される症例が多かった。検出されたK-rasコドン12の変異型に関してはほとんどGAT、GTTで膵腫瘍性疾患例と比較して差は認めなかった。これらの症例は超音波内視鏡、MRCP、腹部CT等の画像診断を中心として経過観察中である。最長3年の経過では、変異ras検出量が多かった1例に嚢胞の増大を認めたが、膵癌の発生は認めていない。今後長期経過観察が必要と考えられた。
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